気が付くと、私大定員厳格化の罰則強化見送りのニュースが飛び込んでいました。受験生にとっては朗報であることは間違いないのですが、じゃあ、実際このニュースは2019年入試にどんな影響を与えるのかを考えてみたいと思います。
- 2019年度入試動向はこれからつかめてくる。「定員厳格化見送り」はひとまずプラス!
- 私立大学が実際に何をしてきたのか?私大定員と推薦入試。
- AO・推薦入試に受験生はどう動いているのか?
- 「罰則強化3年見送り」と「インセンティヴの導入」の意味。マイナスは?
2019年度入試動向はこれからつかめてくる。「定員厳格化見送り」はひとまずプラス!
まず、第一に、結局入試動向というのは、受験生の出願によって決まる、ということです。分子となる「合格数」の増減は非常に重要な意味を持つにしても、もうひとつの分母「受験者数」は結局のところ、志願状況である、ということです。
これから、12月にかけて、河合、駿台、ベネッセと、受験状況の報告会が続きます。結局はこれらの報告を待たなければいけません。
私立大学定員厳格化、つまり合格者数の減少、17私大(早慶上GMARCH日東駒専に関関同立で17大学)でこの3年合格者は3万8000人減らされたという読売新聞のニュースがありました。そういうわけですから、影響がないわけはありません。
しかし、輪をかけたのは、受験生の志願動向。上のベネッセの②をみても明らかで、受験生が、「厳しくなる。だから受験校を増やそう」という動きをしたのは明らかで、結果として合格者数の減少以上に、厳しい結果になっていくわけです。
そういう意味では、共通テストへの移行をひかえる現高2学年が現高1以上に厳しい学年になるのは簡単に予想できます。
さて、今回のニュースが、受験生に安心感をもたらすならば、これは「受験校を増やさなくていいや」という動きになっていき、結果として「易化」になる、ということなのですが、みなさんどうですか?このあたりは株価予想、景気予測みたいなもので、みなさんの実感がムーブメントを作るわけです。
私はそんなに安心感につながったりはしないんじゃないか、と思うんですが…(そんなこと書くと厳しい受験動向を誘導するみたいですね。でも、そんなに影響しそうにないいですよ。受験生に比べてアクセス数は微々たるものですから。)
いずれにせよ、みなさんがどう感じて、どう出願しようとするかが、秋の模試での志望校記入につながり、そこから、各予備校が予想をするわけですから、今しばらく待っておく、というだけのような気がします。
私立大学が実際に何をしてきたのか?私大定員と推薦入試。
とはいえ、現段階の私の予測です。
一つ目に考えるべきことは、私大は何をしたのか、ということです。私が大学の入試担当者とお話をした限り、今年の1.0倍を見据えて、「すでに定員通りの発表をするよう合格者を調整してきた」ということだと思います。
だからこそ、定員を越えないように発表を行い、それでは経営に悪影響を与えるから、ニュースにもあるように、ぎりぎりまで、追加合格の形で補充を行った、ということだと思います。
ということは、そもそも、今年は昨年以上に厳しくなる、というのは極端な表現で、おそらく昨年よりもやや厳しくなる、という程度が正しい表現だったはずです。もちろん、去年でも「ものすごく厳しい」入試ですから、そこから維持または「やや厳しい」でも十分、厳しい印象であることは間違いありません。
というわけで、整理すれば、
そもそもそんなに厳しくなるわけではなかった今年が、今回のニュースによって、昨年並みとはいえ、やや緩やかになる
という予測も可能です。
そういう状況の中、いくつかの大学は、推薦入試での定員確保に乗り出していると思われます。
早稲田の教育が自己推薦から指定校に移行してみたり、理科大が公募推薦を実施してみたり、学力型AOが広まってみたり、各大学はあの手この手で、あらかじめ優秀で思いのある人材、そして確実に入ってくる学生を増やして、合格したからといって入ってくるとは限らない一般入試の合格者数をさらに減らそうとしているように見えます。
AO・推薦入試に受験生はどう動いているのか?
今度は受験生のみなさんや高校の先生方に聞いてみたいことです。
昨年と比べて、指定校推薦やAO・公募の出願状況はどうですか?
私は、あれだけ私大が厳しくなれば、安全志向が働き、指定校で決めてしまいたい、チャンスがあるならAO公募を受けておきたい、という生徒は増えているのではないかと思うんですね。
大学は戦略通りです。
問題は、一般入試です。
みなさんは、定員というのは、きちんと決められたものだと思っているかもしれませんが、実はそうではありません。
たとえば、指定校推薦の場合、学校に枠が送られたからといって、全部の学校がその枠を満たすとは限らないからです。
また、同じように枠を満たすといっても、学科を選べる推薦の場合、入学者の学科の偏りが生まれることもあるはずです。
こうした不確定要素を全部引いて、大学の一般入試の定員が決まるわけです。発表されているのはあくまでも目安。
実際は、
- 指定校推薦の合格者数
- AO・公募などの合格者数
- 併設校、付属校からの推薦の進学者数
などによって、一般入試に残された合格者数は変わってくるわけですね。裏を返せば、定員以上に入学者を出すために合格を増やさなければいけないこともあれば、定員以下の入学にするために合格者をさらにしぼる可能性もあるわけです。
で、です。
指定校が増えていれば、一般の合格者は減る。
公募に多く応募があれば、優秀な、とりたい受験生が多くなる可能性が高くなり、公募の合格者が微妙に増える。結果、一般の合格者は減る。
実は、一般入試はさらに厳しい状況になるような気がします。
「罰則強化3年見送り」と「インセンティヴの導入」の意味。マイナスは?
さらに今回のニュースですが、
「3年見送り」と「インセンティブの導入」です。
まず、「3年見送り」ですが、大学からすれば永久にやめてほしいはずです。となると、仮に昨年1.0倍発表していたとして、今年見送ったからといって、「少し合格者を増やそう」という発表になるかどうか。
大学からすれば、増やせたところで、3年後にまた減らされる可能性もあれば、そういう動きをするのは、結局意味がない。3年後にまた方向転換するのでなく、今から1.0シフトに対応しておくべきだということです。
そして、変にオーバーすれば、「やっぱり1.0にしないと受験生が首都圏に集まるから、1.0にします」とか言い出す確率があがりそうですね。
それ以上に厄介なのが「インセンティブ」。
大学からすれば、定員で経営計画を立てるしかないんですね。
1人減れば、一人×学費×4年間の減収です。学費を140万とすれば、それだけで、560万円の減収。10人なら、なんと5000万越えです。
だからこそ、
「定員以下で発表して、ぎりぎりまで追加で補充する」という戦術に出るわけです。こんなことやりたいわけがありません。手間はかかるし、面倒だし、受験生のためにならないことは知っているし。
「定員は超えられない、でも、増やせるものはぎりぎりまで増やさないと経営に響く」という意識からやらざるを得ないことなわけです。
でも、これは受験生を巻き込んだ、不幸な引き抜き合戦。合格なら最初から合格出してくれればいいのに、お互いの大学から引き抜きあう。
受験生も不幸なら、大学も不幸です。
で、「インセンティブ」。いい案です。なんのために追加合格出すかといったら、経営のためですからね。
定員下回った大学に、「追加で他から引きぬかなければ、お金あげるよ」ってことですよね?手間と金額を天秤にかければ、不幸な引き抜き合戦は、だいぶ下火になるはずです…
って、合格者が減るってことです。
昨年までのかすかな希望は、「一般は厳しかったけど、追加も増えるはずだから、不合格でもぎりぎりまで勉強して少しでも上に行こう」だったわけですが、今年は一般で不合格なら、もはやチャンスがない、ということかもしれません。
暗くなりました…。
というわけで、わずかな易化への期待は、「みなさんが受かると思って受験校数を減らすこと」「大学が今回の決定から合格者を増やし、入学者を1.0倍以上のぎりぎりを目指すこと」のふたつしかなさそうです。
国の思惑通りになるのは悔しいですが、地方国立を含めて、国立大学を最後まで狙うのが、成功への一番の対策のような気がします。