大学入試が混乱する中、特に今年は「安全志向」が働いている状況です。そんな中、下位大学に落ちて上位大学に受かるという逆転現象も起きることがあるでしょう。難易度の逆転があるのか、ということを考えます。
次年度予定される「共通テスト」の実施、その後は新課程の導入、入試の変更と、まだ更なる変更が続いていきます。
おそらく、調査書のデジタル化というのも、必ず導入しなければいけないことですし、そうなれば、また入試が多様化していくことが考えられます。
一方で、少子化は続きますから、大学入試そのものは易化に向かいますが、大学側からすれば、様々な工夫をして、よりよい学生をとろうと考えるはずです。
それは、受験生からすれば、「これだけやればいいんでしょ?」とか「ここまでやればいいんですよね?」とか「これはいらないからやらなくていいですよね?」というようなところからは遠い入試になると予想されます。
となると、受験生からすると、「安全志向」というのは、年度による差はあれ、当面続くような気がしてなりません。
というわけで、まことしやかに「下位大学」と「上位大学」の逆転というようなことが書かれていたりするので、少し説明しておきます。
- 2018から2020年度入試にかけて起こっていること
- 「下位大学」と「上位大学」の逆転…はどのぐらいあるのか?
- 完璧が求められる「文系」と実力が反映される「理系」
- 難易度が逆転するということは、人気が逆転するということ
2018から2020年度入試にかけて起こっていること
まず、この大前提がわからないといけませんね。
大学受験は「定員管理」「定員厳格化」というものが段階的に進んできたのです。つまり、入試定員を越えてとったらペナルティ。補助金あげないよって私大をしめつけたんですね。
当然、そうなれば、上から下に受験生が落ちてくるわけで、レベルがあがる、つまり、厳しい入試になってきたわけです。
それが2018年にピークになりまして、その後は据え置き。とはいえ、解消ではないので、合格者数は基本的に少ない状況でとまっているわけです。
これが段階的に進んできまして、そういうものを踏まえて受験生が動いてきました。
感覚的には2018年がその厳しさのピーク。
で、2019年は、上位の受け控えが起こり、日東駒専、大東亜帝国…なんていう呼称が完全に復活するぐらい、このあたりの大学が厳しくなりました。
各大学は、定員を越えるわけにはいかないので、やや少なく合格発表をして、追加合格で最後の調整をするようなイメージで入試を進めるんですが、これも上から順番にやりますから、下の方はどんどん抜かれる…。というわけで、下の方の大学になると、3月31日までに、埋めきることができず、抜かれるだけ抜かれてタイムオーバーみたいなことも現実に起こっています。
いや、厳しい。
とはいえ、定員管理はもう一段進む予定がとまりましたから、実際には進行し続ける少子化と加えると、「易化」の方向に進んではいます。
しかし、日東駒専、大東亜帝国のあたりでは、かなり上位受験者が降りてきているのではないか…というのがデータで見えています。
ここには、次年度から実施予定の「共通テスト」の影響も色濃く出ています。結局、「延期(中止)」になりましたが、外部検定や記述の導入など、それに加えて主体性を加えるとか、私大が、たとえば早稲田の政経が数学必須にしたりとか、様々な変更を加えてくることが見えていて、浪人するとヤバイとばかりに、「今年決める」すなわち「安全志向」という入試が起こっているわけです。
たとえば、指定校推薦で決めたりとかね。
こういう状況の中、今年は、上位が若干ゆるめ、日東駒専あたりからかなり厳しい入試というのが予想されているわけです。
「下位大学」と「上位大学」の逆転…はどのぐらいあるのか?
というわけで、メディアでは、あおるかのように、以下のような記事が流れてきたわけです。
偏差値が接戦になったり、あるいは逆転したりするんじゃないか…という記事ですね。
上の記事は、タイトルであおってはいますが、中を読むと必ずしも、明治の政経の方が、早稲田の政経より難しくなるとは書いていないので、別にいいんですけど、なんとなく、こうやって、変なことが起こるんじゃないかとか下手すると「立教受かるぐらいの実力で東大受かるんじゃないか」みたいなことを勘違いする受験生が出て来る気がします。
特に下の方の記事は、ちょっと中身の方も、踏み込みすぎている気がするし…
大学入試は、きちんと準備をすれば、チャンスであるような状況になってきています。しかし、勉強しないで、上位大学に受かるような状況ではありません。
上のような記事を見て、「うわあ、どこも受からなくなるかも…」と思ってもらえるならいいんですが、「もしかして、上狙うと、思わず入っちゃったりするの?明治より早稲田がやさしくなったりとか?」と思われると大変なので、くぎをさしておきたいと思います。
完璧が求められる「文系」と実力が反映される「理系」
まず、これまでも比較的、滑り止めに落ちて、本命に受かるということは大学入試では「よく起こる」ということです。
大学入試は、実質倍率でも5倍~10倍というのが人気大学では普通です。そうなると、合格最低点というのは非常に高くなっていく印象なんですね。
つまり、失敗が許されない。
文系と理系では、理系の方が比較的逆転が起きず、順当に行く印象です。理系の方が文系に比べて合格最低点が低く、ちょっとぐらいのミスが許されるのと同時に、数学とか理科とかが当たり外れが大きいように見えながら、全部外さない限り、結局帳尻があうというか、実力のない人の大当たりが起きにくい、というのがポイントかもしれません。また、問題傾向は確かに違いがありますが、難関大というくくりとか、中堅というくくりでは、問題レベルはある程度共通していて、ずれていないし、難関大の問題はできるけど、中堅以下の基礎問題はできない、というのは教科の特性上、起こりにくいんだと思います。
一方、文系は、合格最低点が70%以上あるのがふつうで、低くても70%を切るくらい。倍率が高くなれば、そうなるのも当たり前です。こうなってしまうと、国語とか英語とかでちょっと読み間違えると終わってしまいます。
しかも、私大はマークの確率が高く、つまり、「ふたつにしぼれたけど間違った…」というのを何問かやらかすだけで、いきなり不合格ラインに行ったりするわけですね。特に国立は記述がほとんど、ですから、準備もだいぶ異なります。また、大学ごとの傾向も違っていて、準備をしていない人が落とす…というのはありがちな話です。
実際、私の経験でも、文系の上位者が全勝するっていうのは、本当に力のある人だけで、ぽろぽろ意外なところで落ちたり、激戦のところで突然受かったり…というのは、思ったよりあることです。
ただ、できない人が、突然上位にうかるようなことは起きにくい。起こるとすれば、入試科目がそこだけ特殊だから…というようなことだけ。
文系の上位大学について、よく生徒に話すのは、
- 英語、古文、歴史がひとつでも偏差値55レベルだと、かなり合格は厳しい。
- 漢文が少ししか出ない、文学史が一問しか出ない、といって捨てているような受験生は出題された大学だけ落ちる
- 早稲田になってくると、現代文までそろえるのがポイント。現代文が安定しないと全勝はない。
こんな感じ。ざっくりなんで。
データを見るとわかりますが、本当にボーダーラインの1点下にたくさんいるんです。2点下はもっと増える。3点下はもっと増える。このぐらいで合格者と同じぐらいの惜しい人がいたりします。だから惜しい人がたくさんいる中で、いかに勝ち抜くかというのが、大学入試なんですね。
というわけで、対策を怠るというか、「A判定出てるから、過去問ながめただけです」という人がやらかしやすいのが、特に文系なんですね。
一応書いておくと、逆転されやすいということは、逆転しやすいということです。
だから理系は、逆転されにくいということは、逆転しにくいということ。
だからこそ、文系は油断なくがんばってほしいし、理系で逆転したいなら、よほどがんばるか、よほど早くから準備するかしないと厳しいということです。
難易度が逆転するということは、人気が逆転するということ
記事にあるような逆転現象は、普通に起きます。でも、それは、「東大受けた一人の受験生が受験した半分のMARCHレベルを落とす。」ということでなく、せいぜい「東大を受けた受験生で全勝できなかった人が結構いる」という程度の話です。
早稲田で見たって同じ。明治落として早稲田受かった受験生は、それはそこそこいるでしょうが、「早稲田受かった受験生の半分が明治は不合格で、明治の不合格者にも早稲田の高い合格率があります」なんてことにはならないんですね。
もちろん、今後、そういう事態が起きないということはありませんが、起きるということは、「早稲田より明治に行きたい受験生が増える」あるいは「早稲田と明治はどうレベルのブランドに見えている」ということです。
現状でもMARCHと言っていますが、SMARTなんて言葉も出てきましたね。上智、明治、青山、立教、東京理科大です。
GMARCHなんていう言い方もありましたが、この中で、明らかに明治、立教が抜け出ていて、おそらくそこでも最近、明治の方がリードしている印象です。青山が追いかけて、中央は反撃に出ようとしているけれどまだまだ、法政はこの安全志向の中でいったん上に来たけど、またちょっと差がつけられつつある…という感じでしょうか。学習院はどうしてかわからないけど、明らかに難度がさがった。
だから、明治が早慶に並ぶ可能性が、今後ないとはいえません。しかし、そうならないなら、難度は逆転しません。
上にも繰り返し書いていますが、もし、明治の難易度が上がって、早稲田の合格ラインが下がったとします。
- 明治と早稲田両方受かる人
- 早稲田だけを受けて受かった人
- 明治と早稲田を受けて早稲田だけ受かる人
- 明治と早稲田を受けて明治だけ受かる人
- 明治だけを受けて受かった人
というのが合格者になります。
明治の難度があがるということは、両方受けた人で片方受かる人、「早稲田だけ受かる人」と「明治だけ受かる人」を比べた時に、「早稲田だけ受かる人」の方が多くなるというような状況を指します。
この時、もし早稲田の方が人気があるなら、明治に進学するのは、明治だけを受かった人だけ、早稲田の方は、両方受かった人に早稲田だけを受かった人を加えた人数になります。しかも、早稲田を受かった人の方が多い…。
これって、早稲田があふれる状況です。だからこそ、こうならないためには、早稲田の合格者の方が少なくなるはず。
そうなると、難度の逆転は起きないんですね。
もちろん、起こるかもしれません。でも、もし、実際にこんなことが起きたら、早稲田の入学者があふれ、明治は足らなくなります。そうなったとすると、明治は追加合格を出す…という流れ。
繰り返しますが、明治が早稲田に追いつかない、なんてことはないです。明治のステイタスが早稲田、慶応と並ぶようになることはあるかもしれません。しかし、そうなるまでは難度は逆転しないんですね。
だから、勉強していないのに、上位大学にチャンスがくる…なんてことはないんです。
東大を受かる人が、早稲田や立教を不合格になることはあります。
しかし、立教の合格ラインにまったく届いていない人が、早稲田や東大に受かるなんてことは起きません。
もちろん、立教の合格ラインをしっかり越えている人が、一発早稲田に受かることはあるとは思います。
でも、立教の問題が勉強不足でまったく解けないのに、早稲田なら解ける、なんてことはないんです。
というわけで、結局は大学受験のステイタスがどう変わっていくか、ということが難度を決めるわけです。
今後、大学受験がどう変わるかを私が予測するなら、そうしたステイタスを回復するためにも、学校推薦型選抜や総合型選抜で多様な受験生も確保し、一般選抜の枠を縮小するはずです。で、総合型選抜で必要な学力をしっかり聞いていく…。
ここをうまくやれば大学のステイタスは上がるし、受験の難度もあがる。
世間は、入試の公平性で騒いでいますが、結局は「選抜は共通テストじゃなくて、大学が個別でやるものだよね」ということになり、結果、上記のような流れになると思います。
というような話でした。